押韻について_非母音主義、押韻の距離感、汎韻
Twitterで韻のことを考えていた。
@2r96: 押韻を使ってリズムを作ることができるみたいなことにはなっているが、そもそもなぜ時間的に離れた母音要素を押韻として認識してリズムまで感じ取れる仕組みになっているのかわりと謎だ ワーキングメモリというか感覚記憶的な部分にそれまでの歌詞がリフレインしていて、その都度感覚された母音と照合を行ってるということなんだろうか。それとももっと単純な音の区別で成り立っているのか……(ドラムパターン的な)
押韻を認識してリズムを感じ取れるというのは経験的な事実だとして、そうなると今度はどこまで押韻として認識できるのか(時間的な距離と母音的な距離)とか、そもそもどこまでが韻なのか(例えば2種類のスネアを押韻ということにできるか)とかが気になってくる。
韻についてはいつもぼんやりといろんなことを考えている。
sagishiさんの以下の論考は私の直感にとても近く、おすすめ。
@sagishi0: 手前味噌になってしまいますが、このあたりの考えは、もしかしたらわたしの趣味的な研究が役に立つかもしれません。 日本語の押韻論:母音中心主義の問題と押韻の本質
押韻の母音主義
@2r96: 押韻の母音主義の強さは感じていて何かと韻といえば母音と(私自身も)なりがちだけど、例えばドラムはキックとかスネア、ハイハットでリズムを刻んでいるわけだけどこれらは人間の発声に引き寄せて考えると子音に近く、そう考えると子音の押韻で作るリズムも無視できないという気持ちになってくる。 @2r96: 韻を踏むとき母音の脚韻で踏むぞーみたいになりがちなのを反省して空を満たしては子音の頭韻でリズムを作るテストをしたりしていた。(冷(h)えた空気で肺(h)胞を、凪(n)いだ命(n)で内(n)臓を、的な) https://www.youtube.com/watch?v=FrwDrugam-0&feature=youtu.be
上に書いてる通り、『空を満たして』では何かとやりがちな母音脚韻に対抗して子音頭韻を盛り込んでいて、Aメロもよく見ると「掻き集めた欠片で顔を」「瞳入った光」「塞ぎ倒して閉じた皮膚は」と、単語の頭の子音を微妙に揃えようとしてるな、と今日思った(忘れている)。2番は飽きてるっぽいけど……
https://youtu.be/2mnLVvJgNNc?t=92
1:32からドラムとパーカッションのソロが入り、そして1:48からRHYMESTERの宇多丸が再びラップを始める……のだけど、このラップの歌い始めに注目。
いまの「ダチーチーチー」にまたいちいち
声上げて喜ぶそんな一日
ウケ狙った結果スベったスピーチ
さえ余裕さ まるで『クレイジー・リッチ!』
みたいな気分と見事に一致させてくピッチ 例の7インチ
このラップは母音だけ見れば「イ」で踏んでいるわけだけれど、見ての通り「ダチーチーチー」からスタートして「チ」で子音まで合わせて踏み続けている。ここで重要なのは踏み始めの単語であるこの「ダチーチーチー」。これは何かというと直前のドラムのフィルインのパターンに対する言及になっている。聴き直すと、ラップが始まる直前にドラムが「ダチーチーチー」と言っているのがわかる。
つまり、この「チ」で踏み続ける押韻のスタート地点は宇多丸の口から出た「チ」ではなく、その直前でドラムが奏でるハイハットの「チ」ということになる。これはアツい。押韻のスタート地点は別に声でなくてもいいのだ。
https://www.youtube.com/watch?v=1xOnvHf4sS4&t=135s
これも聴いてもらえればわかる。
真剣に眺める一輪一輪
鳴らす小さなベル チリンチリン
これは今夜はローリング・ストーンの逆パターンで、効果音を脚韻として使って落としている。
鈴の音から「(チ)リン」が聴こえるかはわからないけれど、こっちはある種脳内で完成する押韻とも言えるかもしれない。
こんなテクニカルな話から入らずとも、子音というのは韻にとってはけっこう重要な要素なのだ。
https://youtu.be/Hi_7ix67GFI?t=107
生活が逆転して活性化
いつか成果出れば達成感
まるで活性炭 耳を貸せ一旦
ヤバイトコ見て
また生還した正気帰還者
K/S/Tでの押韻。
https://youtu.be/ZZIur_FcAOw?t=83
COZMIC TRAVELA LA LA LA
POP THA BUBBLE IN THA TROUBLE OF FASHION
投げる A CAPELLA LA LA LA
LISTEN UP CLEAR UP THA 言語プロセッサー
R(L)/P/Bでの押韻。
https://youtu.be/CfDGX44A_7E?t=113
幸か不幸かの 等価交換
混沌とした コンコルド効果
なんとかかんとか 花崗岩
後がないとか 監督 抵抗感
K/Tでの押韻。
子音、侮れない。
子音に限らず、特に韻ノートとかに馴染んでしまうと「ん」とか「っ」とかも軽んじられる傾向にあるけれど、当然母音も子音も持たない彼らも非常に重要な役割を持っている。
https://youtu.be/A1oxh8Z-2ko
「っ」はスパッと、「ん」は絞るように音価(発音の長さ)を切っていくので、織り込むことでリズムに合わせたグルーヴ感を演出できる。この手のリフレインが押韻と呼ばれることはあまりないが、立派な韻として扱いたい気持ちがある。
https://youtu.be/GlEl4Ega84M?t=23
「っ」で作るリズム。歌詞というよりもこれは完全にチプルソの発声法依存だけれど。すごいフロウ。
https://youtu.be/vsWSq9bHUQ8?t=120
これも同様。「っ」で生むグルーヴ。
https://youtu.be/Mr_uHJPUlO8?t=15
レッチリ。アンソニー・キーディスの声を絞り切るようなラップの仕方が好き。
https://youtu.be/LiQiTBg3tVo?t=172
T-TANGGはMCバトルで促音(っ)を意図的に無音にするくらい強めに切ることでグルーヴを作っていて、面白い。「上がってるだけ」「かってにやれ」など、一瞬声帯を詰まらせるように発音する。
https://youtu.be/E08Intw81T0?t=98
これは「ん」でリズムを作るパターン。「爆音の韻波句徒」で回収されるのが気持ちいい。
押韻の距離感
@2r96: どのくらいの距離までなら踏んで聞こえるのか問題はずっと気になっていて、例えばメドミアさんの『ラッカンライア』では「ことなかれ主義者」「大人のレプリカ」みたいな押韻を1番と2番という距離感でやっていて(すごい)、それでも韻を感じられるのはAメロという構成上の位置を共通で持ちあわせているというのが大きいんだろうか……と思ったりもする。 https://www.youtube.com/watch?v=A0wE7pQajM0&feature=youtu.be
1番と2番のAメロで押韻って、すごいですよね。大胆。「ことなかれ主義者/大人のレプリカ」だけじゃなくて、よく聞くとAメロ全体が押韻関係を持って対応している。
恨み愛のグラビティ 軽薄なテレパス
容態はどうだい ことなかれ主義者
しらばっくれちゃってみっともないことこの上ないね
仕方がないさそれがオトナです
繋ぎたいのシンパシー マイナスの快楽
風化したチューナー 大人のレプリカ
要らないものだって一個もないなんてことはないね
また一つだけ賢くなりました
この距離感だと普通押韻は認識でき無さそうだけれど、Aメロという楽曲構成上の共通の位置を持っていることによって「1番のAメロの響きと近いぞ……!」という感覚が生まれている気がしている。メドミアさんの楽曲はシンプルに強烈な中毒性があり何回もリピートするので、その中で隠された押韻関係も暴かれていくのかもしれない。
「ミカイタクビート」も押韻が作るリズムに全振りしてて超気持ちいいのでおすすめです。
https://youtu.be/O2qfCYPiQvI
離れた押韻で思い出すのは、ニコラップに「ひでん100」という伝説のラップクルーがいて、そのひでん100が出している「蟲喰いデバッガー」というラップソング。
この曲はめちゃくちゃすごいので前編まず聴いてほしいけどここで注目したいのはhookの1:39からのライン。
ビートが好物 どんな音楽狂いのお客だって、もう中毒
節足動物門汎甲殻類六脚亜門昆虫綱
この部分、一見するとどういう関係性になっているのかわからないが、分解して対応付けると以下のようになっている。
ビートが好物どん/節足動物門
な音楽狂い/汎甲殻類
のお客だって/六脚亜門
もう中毒/昆虫綱
つまり、このラインまるごと一文ずつで押韻していることになる。たぶん常人のワーキングメモリではここまでの長さの押韻をまるごと感覚で判別するのは難しい。ここまで来ると、もうリズムやグルーヴを生むという機能の枠組みでは語れず、別の美的な枠組みを持ち込む必要がある。聴く韻あれば読む韻あり。
韻、どこでどう、どれくらい踏む
@2r96: 母音の反復パターンを検出して押韻を認識してるだけならどの位置でどういう形どういう長さで何回踏んでも押韻として認識できるくね?と思って、「流転光速」のポエトリーでは"EO"を最小単位のモジュールとして適当なタイミングでひたすら押韻し続けるという方式を採ってみた。 https://www.youtube.com/watch?v=1YaXcnLuKag&t=102s
『流転光速』は普通と少し違う押韻の方法をとっていて、というのも人間は母音の反復があればそこを韻として検出する……ということであれば、リズムを考えずに最小単位の韻を大量に散りばめればそこからどんどん押韻関係を拾い上げて脳内でリズムを再構成してくれるのでは?みたいなアイデアで作られている。
これはもう脚韻でも頭韻でもなく、リリック全体に韻があふれているという、ユビキタスな、汎韻とでも言うべきスタイルになっている。野暮ながら一応「EO」「EE」「OE」「OO」のパターンが含まれる部分を太字に記す。
時間前方へのエコロケイション
テトレイションの先にある回向の継承
ヘッドセットからテレポーテイション
天井裏のセルフポートレイト
……に先行する言論
論理ゲイトを象った跨線橋
レプリケイション FM変調
天の赤道上のE2E(エンドツーエンド)
天網恢恢疎にして漏らさず
善導 宣教 定言命法
転倒した桃源郷のレメディエイション
弁証法ぽく伝承
廴(えんにょう)辶(しんにょう)尸(しかばねかんむり)
古典言語たちの蠕動・変奏から
未開のコノテイションへの、言語現象……
この汎韻的なアイデアに最も近いのは例によって志人で、志人のリリックはだいたい全てがどこかと押韻関係を結んでいるみたいな曲が多い。
https://youtu.be/dhXPV-BNZU0
流転光速は「新月 ~心の宇宙~」とかのほうがスタイルが近いかもしれない。
https://www.youtube.com/watch?v=8Fg26eNe2jc